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基調講演「オーダーメイド医療とバイオバンク」
それから、繰り返しになりますがオーダーメイド医療というのは先ほど麦島先生の話にもありましたように、個々人に最適な予防法とか治療法を可能とする医療です。たとえば洋服で考えてみましょう。同じサイズの洋服をいろんな体型の人に無理矢理着せると、だぶだぶな人もいるし、窮屈な人もぴったりな人もいる。今の医療は、まさにこういう形で、ある診断がつくと、その診断に基づいて同じように同じ量の薬を投与するという形になっています。したがって、先ほど「何々体質」と言いましたように、ある薬は、ある患者さんには合うけれども、ある患者さんには合わないということがでてきますし、時と場合によっては非常に副作用がでたりします。これから目指す医療は個々の患者さんの病気がどういうタイプであるのかということを、オーダーメイドの服を着せるように、きっちり測って、個々の患者さんにぴったりした洋服を着せるように、ぴったりした治療を提供するというもので、それは遺伝暗号の違いを明らかにすることによって、一歩ずつでありますが、その方向に向かって進むことは間違いないと考えております。
私は、長くがんの研究に携わってきましたので、がんの例を一つ紹介します。あるがんが進行しますと、多くの患者さんが放射線治療、あるいは抗がん剤治療を受けます。治療を受ける段階で、その患者さんに対して、この患者さんには薬が効くか効かないかわかっているのかというとそうではありません。副作用がでるのかでないかもわかっておりません。そういう状態で何十パーセントだったら効きそうですよ、というような確率論で患者さんに情報を提供しています。あとは、患者さん、あるいは患者さんの家族が自分の判断で、「この確率だけどもどうしよう」、「治療を受けてみよう」、「受けるのをやめてみよう」という判断をされています。はたしてこれが、近代型の医療といえるのでしょうか?
個々の患者さんが知りたいのは自分自身、あるいは自分の家族がある治療法を受けた時、例えばがんの場合ですと放射線や抗がん剤治療を受けた場合に、副作用もなく元気に帰れるのか、あるいは効かなくて副作用で苦しんで不幸な転帰に終わってしまうのかを知りたいのです。当然ながら副作用が強いとわかっていれば、そのような薬を患者さんに投与しないというのは、当たり前のことです。その当たり前のことが、今まで出来なかったわけであります。遺伝子の情報を利用することによって、そういうものに対して我々は近づきつつあるという現状を知っていただきたいと思いますし、今日はこういう場ですので細かいことはお話しませんが、我々は、ある抗がん剤に対して効くか効かないかを予め予測するような診断法をすでに開発しております。そのような輪を広げていくことによって、「この薬をつかえば効く」、「この薬はこの患者さんには副作用を起こさない」、あるいは「この薬を使うと副作用を起こすから避けるべきだ」というような情報提供をしたいと考えております。
最終的なゴールはどういうものかといいますと、遺伝子の情報をICカードのようなものに保存し、このICカードを持って患者さんが病院に受診する。病院ではいろいろな検査をして診断をつけて薬を出すわけですが、その薬とその患者さんの体質、つまり遺伝子の特徴が合うか合わないかを調べて、この人は副作用を起こしそうであれば、その薬を出すのをやめなさいというような情報をコンピューターが指示して副作用を回避するような治療法の確立をめざしたいと考えています。これは決して夢物語でも遠い将来の話ではありません。一歩ずつ、この現実化に近づきつつあるのです。
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